特別な時間
道草が勢いを増す小満の頃、畑に向かう途中にある桑の実が色づきはじめる。例年より雨が多い事もあり、なかなか収穫のタイミングがあわずにいた。今日こそはと、デスクワークの合間に桑の実を収集にいく。どうせなら写真も撮っておきたいからと欲が出て、夕方に出かけてしまった。道に落ちている実から芳醇な香りが漂っている。3本ある桑の木の周りの草をかき分けながら、なるべく落ちたばかりの潰れてない実をひたすらピックしていく。一応長袖では来たものの、蚊にとっては格好の獲物。もはや罠かもしれないと思うほど、無数の蚊が顔の周りにいる。手にも常に2~3匹止まっている。子連れじゃなくて良かった…子どもの頃だったら無理だった…青を着てくればマシだったかな?蚊は青が嫌いというのは本当なのか?青といえばやっぱり藍染良いよな。などと脳内ツイートが止まらない。今シーズンはもう来たくはないので、バケツいっぱいを目標にする。風で木が揺れる度にボトボトと実が落ちてくる。鳥の声がする。カビチョウだっけ?畑のジャガイモの具合も気になる。陽が沈んで来たからそろそろ終わるか。自然好きとは言っても蚊にたかられる事は不愉快ではある。でもそんな不愉快さを無視できるほど集中しているせいか、苦にはならない。むしろ整っている気もする。季節の移ろいや虫たち自然を通して自分と対話する時間がそうさせてくれているのか。普段何気なく着る服がどうやって作られているか、まして何から染められているかなんてほとんどの人は気にしないのかもしれない。でもモノが出来上がるまでのストーリーや、そこと向き合う時間が僕にとっては特別なのだ。そして、地元多摩で収集した桑の実で染めたボタニカルダイTシャツはまた、特別なのだ。