冬の間眠っていた生きものたちが目覚め出し、活動を始めるのが春分の頃。畑では種蒔きのシーズンが始まる。 竹製堆肥置き場ではカブトムシの幼虫が土づくりを手伝ってくれている。幼虫にとっては食べ放題のオーガニックレストランといったところか。 5月に入ってから用意しておいた畝にコットンの種を蒔き、その合間に少し遅れて落花生の種を蒔く。マメ科の植物は土に住む細菌と共生し空気中の窒素から栄養を作ってくれるらしい。 畑への通り道に自生する桑の実をおやつにする。畑には色んな虫たちが集まってくる。やたら虫に詳しい息子に虫の名前や生態、レア度を聞いているうちに親しみが湧いてくる。 なぜカマキリが子どもたちから人気があるかというと、目が合うからだ。カマキリが可愛く思えるようになって気づいた。 農薬も肥料も使わずにコットンを育てる上で、やる事は大きく2つ。猛烈に生えてくる色んな草を刈って日当たりと風通しを良くする事と、 調子が悪そうな株をひたすら観察して原因を探る事。 コットンとは別の畝で育てている大豆にカメムシが集っている。放っておくと全滅しそうだ。大豆がやや密集している気もするし、土が肥え過ぎているせいかもしれない。土中の過剰な養分を吸い上げた作物は虫を呼ぶらしい。麦を蒔けば土をデトックスしてくれる、っていうのはそういう事か。 聞いた話や見た話と自分の体感が繋がってくるこの観察遊びがとても面白い。鎌を持ってなるべく土に近い距離で草刈りをしていると、 そこを住処にしていた虫たちとの距離がぐっと近づく。刈った草の下に地グモやカナヘビが隠れていたり、オンブバッタが木陰ならぬ葉影で猛暑をしのいでいたりする。やっぱり虫も暑いんだね。 草を刈って風通しを良くしたコットン畑が森のように見えてくる秋分の少し前。天敵の蚊が減って子どもたちには虫探し放題のワンダーランドと成る。コットンの丸々と太った実が弾け始める。熟す前の実をカメムシが美味しそうに吸っている。ストローを挿してココナッツジュースを飲んでるみたいだ。ちょっとくらいならいいか、と思えてくる。 弾けたコットンの実が風に晒されて、ふわふわとしてきたらそっと指で摘む。ふわ〜と伸びて種まで採れた時のあの感触がたまらない。コットンの葉の裏にウスバカゲロウの卵が産みつけてある。肥料や農薬に頼らず作物を育てる鍵は、生物の多様性だ。草木、虫、微生物を含めた生態系の調和が健全な土壌をつくり、空気と水を育む。そしてその調和が恵みとして作物を与えてくれる。 ふと立派に育ったコットンの根っこが見たくなり、 掘り起こしてみた。その姿に力強さと美しさを感じた。 畑は作物を育てる以上に、僕たちにエモーションやインスピレーションを与えてくれる貴重な遊び場であり学び場だ。そんな場所を少しでも多く未来に繋いでいきたいと思うようになった。
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